先天性十二指腸閉鎖症について

治療日記

今回の記事は父が執筆を担当させていただきます。私は現役の外科医として日々患者さんと向き合いながら、先天性十二指腸閉鎖症を持って生まれた子供を育てる親でもあります。この記事では、同じように病気を持つお子さんを授かったご家族に向けて、少しでも不安を和らげ、これからの治療について理解を深めていただけるような情報を発信しようと思います。

疫学(病気の傾向と合併症について)

先天性十二指腸閉鎖症は、6000-10000人に1人の割合で生じます。発生比率に男女はありません。単独で発症することもあれば、他の疾患を合併して生まれてくることも少なくありません。例えば、ダウン症(21トリソミー)や、心室中隔欠損症などの心奇形を合併するケースがあることが分かっています。また、低出生体重児となることが多いです。お子さんに合併症がある場合は、それぞれの症状に合わせた総合的なサポートが必要になります。

娘の場合、出生前に十二指腸閉鎖の病気がわかり、出生前に染色体検査を勧められました。また、胎児の心エコーを撮ることができる小児科の先生に心臓をチェックしていただきました。染色体には問題ないことがわかりましたが、心臓の奇形や足、椎体の奇形がありVACTERL連合を合併している可能性があると説明を受けました。

発見の契機(病気に気づくきっかけ)

多くの場合、この病気は赤ちゃんがお腹の中にいる間の妊婦健診で気づかれます。胎児エコー検査において「羊水過多」が指摘されたり、赤ちゃんの胃と十二指腸に液体が溜まって2つの泡のように見える「double bubble sign(ダブルバブルサイン)」という特徴的な所見が認められたりすることが、病気を疑う大きなきっかけとなります。羊水過多は、羊水の材料である胎児尿は作られるが、胎児が羊水を飲めないことで羊水が消費されないことが原因です。

医師としては「double bubble sign」という言葉は学生時代に教科書では学んだことのあるキーワードですが、まさか自分の娘に限ってそんなことはないだろう、と楽観的に考えていました。産婦人科の先生からは「1度では確信が持てないから、もう一度診せに来てください」と言われました。2度目の検査でもやはり特徴的な所見があり、大学病院に紹介になりました。また、出生前の母のお腹は、羊水過多の影響かかなり大きかったです。

診断法(出生後の確定診断)

出生後、本当に十二指腸が閉鎖しているかを確認するために、赤ちゃんの腹部レントゲン単純写真を撮影します。このレントゲン画像でも、胃と十二指腸にガスが溜まった「double bubble sign」が確認できれば、先天性十二指腸閉鎖症と診断されます。また、出生直後から赤ちゃんの胃に入れた管(経鼻胃管)から緑色(胆汁の色)の排液が引けることも、診断の重要なサインとなります。

娘の場合は出生前にMRI検査を行っていただき、閉鎖部の手前の十二指腸が拡張している、という先天性十二指腸閉鎖を示唆する所見がありました。

治療法(外科医としての視点から)

十二指腸の詰まりを解消するためには、手術が必要です。現在、途切れた十二指腸同士を直接つなぎ合わせる「ダイアモンド吻合」という再建法が標準的な治療として行われています。 最近では、従来のように右上腹部を大きく切開するのではなく、お腹に小さな穴をいくつか開けて行う「腹腔鏡手術」も普及しています。腹腔鏡手術は傷跡が小さく目立ちにくい(整容性が高い)だけでなく、カメラの拡大視効果によって、十二指腸にある重要な器官(Vater乳頭など)をはっきりと確認しながら縫合できるため、安全かつ確実な手術が可能であるという大きなメリットがあります。また、臍を延長して小さく開腹してその穴から十二指腸を観察、治療する小開腹手術もあります。こちらも傷が小さくて良い治療です。

実臨床においては、腹腔鏡での先天性十二指腸根治手術を行える施設は都会の病院などに限られているようです。我が子の場合は都会での出産ではありませんでした。また、心臓にも異常があるため手術時間をなるべく短くしなければいけない、という状況でした。そのため、視野が悪くなりがちな小さい傷での小開腹手術ではなく、古典的な右上腹部での開腹手術が選択されました。女の子ですのでお腹に大きな傷を作ることへの抵抗はありました。しかし、術後傷を見るととても綺麗に目立たなく閉鎖されており、小児外科の先生たちの繊細な手術には頭が上がらないな、と感じました。

術後の経過(退院からその後の成長まで)

手術が無事に終わっても、すぐにミルクをゴクゴク飲めるわけではありません。術後しばらくは腸の動きが弱く、口から十分な栄養を摂るまでに少し時間がかかります。手術が無事に終わった後の栄養管理も、子供の成長にとって非常に重要です。十二指腸閉鎖症の術後は、腸の拡張が残っていることなどが原因で通過障害が起きやすく、経口での栄養(ミルク)がなかなか進まないことがあります。

そこで、吻合部を越えて肛門側の腸に「TAT(transanastomotic tube)」という細いチューブを留置する工夫を取り入れている施設があります。 TATの大きな利点は、術後1〜2日目という非常に早い時期から「初乳」を与え始めることができる点です。初乳にはIgGやIgAといった免疫抗体が多く含まれており、これを早期に腸へ届けることで腸管免疫能を向上させることができます。

さらに、TATを使用することで、必要十分な経腸栄養(full feeding)を確立するまでの日数が短縮され、点滴による栄養(中心静脈栄養)に頼る期間を減らすことができます。長期間の静脈栄養は敗血症の発症増加や肝機能障害といったリスクを伴うため、TATによってこれらの不利益を回避できることは、術後の安全な管理において大きな意味を持ちます。

徐々にチューブからの栄養から、口で直接飲む哺乳へと移行していき、自力で十分な量のミルクが飲める(自立哺乳)ようになれば退院が見えてきます。

我が子の場合は、帰室した時、吻合部に圧がかからないようにするため胃に留置する胃管と、十二指腸の吻合部を超えて留置するTATチューブの2本が鼻から挿入された状態でした。術後はTATチューブからの栄養投与が術後しばらくして開始されました。段階的に胃管からの栄養投与に移行していき、最終的にTATチューブは抜去されました。また、経過にて造影検査を何度か行い通過に問題がないことを確認していただきました。

予後(親御さんが一番知りたいこと)

「手術をして、この子は本当に元気に育つのか?」 病気を告知された親御さんが、最も不安に思うことだと思います。結論からお伝えすると、先天性十二指腸閉鎖症に対する治療法は現在ほぼ確立されており、昔に比べて治療の予後は飛躍的に良好なものとなっています。術後の経過を乗り越え、口からしっかりと栄養が摂れるようになれば、手術から半年後には問題なく離乳食を開始できているケースなど、他のお子さんと同じように元気に成長していくことができます。

しかし、出生前、出生後にリスクがないわけではないのでそちらも説明します。

出生前のリスクとしては臍帯潰瘍があります。胎児が十二指腸の通りが悪いことで羊水を飲み込めず嘔吐してしまい、胃酸が臍帯血管を溶かし潰瘍を作ってしまうのです。臍帯潰瘍からの出血は致死的になります。予防手段はありませんが、胎動がないといった異常に気付いた場合、すぐに産婦人科に相談しましょう。

出生後のリスクとしては吻合部の通過不良や縫合不全があります。また、先天性十二指腸閉鎖をもつ子供は他の奇形を合併していることも多いので他の奇形と合わせて総合的に治療をしていく必要があります。娘の場合は、気道の問題で挿管管理を行なっているので、消化管の通過には問題がなくても口からミルクを飲ませてあげることはできず、胃管からの栄養投与を継続しています。

お子さんの手術と聞くと目の前が真っ暗になるかもしれませんが、現在の小児外科医療は確実に進歩し、子供たちの未来をしっかりと支えられるようになっています。少しでもこの記事が、ご家族の不安を和らげる一助になれば幸いです。

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【参考文献】

  1. 加藤 怜子, 佐伯 勇, 向井 亘, 今治 玲助, 秋山 卓士. (2016). 先天性十二指腸閉鎖症・狭窄症における transanastomotic tubeの有用性の検討. 日小外会誌 第52巻 5号, 1020-1024.
  2. 小坂 太一郎, 田浦 康明, 吉田 拓哉, 山根 裕介, 高槻 光寿, 江口 晋. (2018). 十二指腸閉鎖症に対する腹腔鏡手術. 手術 第72巻 6号, 877-882. 
  3. 山根 裕介, 吉田 拓哉, 田浦 康明, 小坂 太一郎, 大畠 雅之, 江口 晋, 永安 武. (2016). 当科で経験した先天性十二指腸閉鎖症に対する腹腔鏡下ダイアモンド吻合術. 日小外会誌 第52巻 4号, 963-966.
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